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三浦さん

皆さんは尊敬出来る人っていますか?

出会いの瞬間って覚えてますか?


友達の経営するBARで他の客が帰り始めた明け方、水を飲みながら他愛も無い話をしてたんだ。


あ、そーいえば今、体空いてます?

そう聞かれ実際プラプラしてたオレは空いてるけど、どーしたの?と答えた。




話はこうだ。

友達が以前働いていた建築解体業者が人手不足で、すぐに働ける人を探してるって

建築関係で、働くのは初めてではない。
とりあえず行くよ。と答えると

話通しておくんで月曜日に社長に顔出して下さい

という訳で早速解体屋で働く事になったんだ。


会社に着き、社長に挨拶をし、紹介されたのはガラの悪い若者2人とじいさん2人。

XXさんの先輩っすか?
よろしくっす

と若者

XX元気か?
よろしくな

とじいさん

挨拶もそこそこに早速現場に向かった。

1件の空き家に着くとオレを除く全員が慣れた様子で各自動きだした。

じいさん2人は解体に邪魔になる残された家具やゴミを分別しながらダンプに積み出し、若者は金目の物を物色しながら手際よく片付けを始めた。

オレも見よう見まねで作業に取り掛かる。

その日はゴミの分別と内部解体と言われる石膏ボードを剥がす作業で一日が終わった。

帰りの車の中で若者に

ゆるくやればいいんすよ

などと言われ少し緊張が解け明日の段取りなどを聞きながら帰路についた。

それから何日か働いた後、三浦さんに出会うんだ。


明日三浦さんくるから

と1人のじいさんが言った。

このじいさん、通称タケちゃん

70近いじいさんだが大飯ぐらいの若者に負けない馬力の持ち主だ。

一見穏やかだが実は頑固で自分勝手な性格が災いして、若者達に煙たがられていた。

オレは何故かタケちゃんに可愛がられ、いつも行動を共にしていた。

三浦さんって誰っすか?

タケちゃん曰く凄い人らしい。

その日の作業中三浦さんの仕事の腕前や人柄、武勇伝などを聞きながら明日に備えたんだ。

翌朝現場に向かう途中に三浦さんを迎えに行くと言うんで、オレはタケちゃんのナビゲートに従い煙草の匂いと加齢臭とグリスの匂いがこびり付いたバンを走らせた。

三浦さんの家に着くと2匹の猟犬が誰か来たぞと吠え、その声で三浦さんが家から出てきた。

おはよう

そう言いながら迷彩柄のリュックをトランクに投げ入れ、後部座席に乗り込んできた。

はじめまして、XXの紹介で働いてるオレです。

おーXX元気か?
まぁよろしく頼むわ


そんな挨拶を交わし三浦さんはタケちゃんと談笑を始めたんだ。

時折振られる話題に愛想笑いで応えながら運転していると

ちょっとローソンよれ

と三浦さん

店に入るなりカゴを持ち出し、その日現場に集まる人数分の飲み物をカゴに放り込み

タケちゃん、オレ君、好きな物買え

と、促した。

オレが遠慮しているとオレが吸っていた煙草を店員に告げ、ついでに肉まんを買ってくれた。

車に乗り込み三浦さんにお礼をすると

この現場は俺が親方だから一服は俺持ちだ

と言って笑ったんだ。

現場に着くと今日から重機で建物を壊す段取りになっていた。

三浦さんは建物の周りを眺め、建物の中を点検し、おもむろに重機に乗り込みエンジンを掛けて、すぐに降りてきた。


俺がこう、こう壊すからお前達はこう動いてくれと指示をして

まず煙草吸え

と出鼻を挫く一言。

オレ達は煙草を一服し、三浦さんはお茶を飲み干し、暖気をしていた重機に乗り込んだ。

まるで重機を手の様に操り、建物を壊していく。

倒れる方向や木が弾けて飛んでいく方向を計算し見る見る建物が無くなっていく。

三浦さんの指示の元、予定より早めに建物を壊す事が出来た午後の一服。

今日はここまで。帰るべ。

三浦さんが言った。

みんな素早く後片付けをして車に乗り込もうとした時

道の駅に集合な

と三浦さん。

訳もわからず道の駅に着くと食堂に連れていかれ好きな物注文しろと言った。

皆に食べ物を振る舞い、三浦さんはビールを飲み出し宴会が始まった。

一時間程して三浦さんが会計を済まし帰路に着く車の中で缶チューハイを片手に上機嫌の三浦さんを家に送り届け会社に戻った。


仕事は出来る、話は面白い、気前はいい、そんな三浦さんに惹かれながらしばらく仕事を続けたんだ。


三浦さん入院したんだって


ある日の朝、社長が電話を切るなり話した。

皆、心配しつつも日々の仕事をこなしていった。

しばらくしてタケちゃんと2人で三浦さんの家に様子を見に行ったんだ。

よう

ガリガリに痩せて、腰に尿を貯める袋を取り付け犬の世話をしてた三浦さんがいた。

ショックだった。

あんなに元気で豪快な三浦さんが骨と皮だけの姿になっていた。

大丈夫だ。また熊撃ちに行くからよ

それが最後に聞いた言葉だった。


本当に偶然だった。

オレの親父が長い闘病生活を終え火葬場に行った時、隣の待合室に知った顔のじいさんがいた。

あれ?なしたの?

おめぇは?

親父死んでさ

三浦さん死んでよ


親父と三浦さんは同じ日に死んだらしい。


オレは親父と尊敬する人を同じ日に失ったんだ。


オレは死後の世界やら先祖のなんちゃらとか仏のどーたらとかの類はまったく信用しちゃいない。


ただ、死んだ者の意思やら思いは受け継いでいけるとは思う。



色んなものを受け継ぐにはオレはあまりにも未熟だ。


クソ


やりきれねぇ

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