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ノスタルジックヒーロー

ふきのとうが花を咲かせ、つくしが一斉に伸び始める頃のお話

 

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日がだんだんと長くなり、まだ遊び足りないオレはいつもヒーローの帰りを待ってたんだ。

 

夕方5時半、縁側に腰かけ足をぶらぶらさせながら向かいの通りを見つめていると

 

ブルルルルル

 

白いボディの荷台に緑色のシートをかけた軽トラックがうちの車庫に入ってくる。

 

黒い筒状の保温弁当箱と紺色の水筒を持って軽トラからヒーローがおりてくる。

 

 

おかえり

 

縁側から一目散に飛び出すと弁当箱と水筒を奪い取りおかんに押し付けヒーローに遊びをせがむ。

 

ペンキがこびりつき、緑色が色あせたニッカズボンにピカピカの地下足袋

 

首が伸びた白いTシャツ

 

無精ひげで角刈り頭には豆絞り柄のねじり鉢巻き

 

 

いつもならヒーローはすぐに着替え、おかんに運転手をさせ駅前のパチンコ屋に行くのだが、今日は違う。

 

鯉釣りに行こう

 

オレは用意していたホームセンターで買って貰った安い釣り竿を得意げに小脇に抱える。

 

ヒーローは真っ赤なスクーターに跨り、オレを後ろに、弟を足元に乗せ近くの橋に向かった。

 

自転車と歩行者しか通れない橋に着くと、ヒーローの仲間が先に釣りを始めていた。

 

橋の下には赤やら黒の鯉が夕日に背びれを反射させ、悠然と泳いでいるのが見える。

 

 

ヒーローと仲間は煙草をふかしながら仕事がどうたらパチンコがどうたらと喋っている。

 

オレは釣り糸を垂らし、橋の上から鯉を見下ろしていた。

 

橋から水面までは結構な高さがあり、仮に鯉がかかっても引き上げるのは無理だ。

 

そんな事はそこにいる誰もが知っていた。

 

 

 雪が溶け、閉鎖された時が終わり、誰もが新しい季節に心踊りだす。

 

そんな日常が始まり、地域の人々が往来する橋の上でその日の労をねぎらい明日の糧にしていく。

 

釣りは口実でよい。

 

ただその場所に集まり、様々なドラマが交錯していく所が橋だった。

 

 

 

今ではその橋に集まる人々はいない。

 

毎日見かけるその橋の隣を通るたび、あの日の光景が頭をかすめる。

 

 

 

 

 

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