読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

あいつが生きていたら~スピードの向こう側~

あいつが生きていたら36か・・・

 

 

 

オレが私立高校を辞め、掃除屋でアルバイトしながら翌年の春、定時制高校に入り直した時の話。

 

 

 

 

入試当日、オレはポケットに一本だけ鉛筆をつっこみ、普通高校とは少し雰囲気の違う定時制高校に向かった。

 

 

試験会場の教室は、想像していたものとは少し違い、年配の方から大人しそうな方まで色々だった。

 

 

学科は建前上あったが、名前さえ書いていれば合格するとの噂だった。

 

面接も特に問題なく終わり、後は合格発表を待つだけだった。

 

 

 

無事に合格通知が届き、迎えた入学式。

 

 

20人程のクラスだった。

 

大体は中学卒業して、そのまま来た子だったが、オレを含め数人は様々な事情のもと再入学した人達だった。

 

 

 

おめえどこ中?

 

 

そう声を掛けてきたのは二人組の身長の低い方だった。

 

 

xx中だけど、おめえは?

 

 

oo中。

 

 

それを聞いたオレは

 

 

oo? 工藤って知ってるか?

 

 

そう聞くと

 

 

工藤さんっすか?俺ら後輩っす。

え? もしかしてオレさん年上っすか?

 

 

と、急に敬語になった。

 

 

いいよ、別に敬語使わなくても。

よろしくな。

 

 

って事で、この二人としばらく学校生活を送る事になった。

 

 

背の低いお調子者が松田。 長身のジャニーズ顔が伊藤。

 

 

伊藤が中免取ると言いだしたのは8月の事。

 

 

それまでは50ccのレーサーレプリカで膝擦ったり、ジャックナイフの練習したりとスピードとテクニックを磨く事が楽しくて仕方ない様だった。

 

 

NSR400買うっす!

 

 

一か月で中免を取った伊藤は、親にローンを組んでもらい、新車でNSRを手に入れた。

 

 

学校と寝る時以外はずっと乗ってるみたいな事をよく言っていた。

 

あんだけ女遊びしてた伊藤がバイク一筋だって松田がボヤいてた。

 

 

 

今日も学校終わったら走りに行くんすよ

 

 

 

ニコニコしながら今日のコースの難所の攻略をオレに熱く語っていた。

 

 

 

 

翌朝、目覚まし時計の音で目を覚まし、ふと枕元のPHSに目をやるとグリーンの着信を知らせるランプが点滅していた。

 

 

松田  1件  02:58

 

 

画面に映しだされた無機質な文字。

 

 

(なんだ?)

 

 

 

松田から掛かってくることなんて滅多になかったから、すぐに掛け直した。

 

 

4コール目位で松田が出た。

 

 

 

オレさん?、伊藤死んだっす。

 

 

 

え?

 

 

昨日の夜、学校が終わった夜9時に一旦家に帰り、皮のツナギに着替え、伊藤は松田とバイク仲間達と峠に走りに行ったそうだ。

 

カーブを曲がり切れずにガードレールに激突したそうだ。

 

 

 

オレさん、伊藤が・・伊藤が・・・

 

 

わかった、松田。落ち着いたらまた連絡くれ・・。

 

 

そう言って一旦電話を切った。

 

 

 

それから数日、松田は学校に来なかった。

 

伊藤が死んだ事はオレ以外のクラスの人は先生から聞いていた。

 

 

伊藤の事が好きだった女の子はショックのあまり、学校を辞めたらしい。

 

 

 

松田が学校に来たのは伊藤の葬式が終わった次の日だった。

 

 

 

松田、大丈夫か?

 

 

慰める言葉も見つからず、最初に出た言葉がこれだった。

 

 

ぽつぽつと事故の話、病院の話、葬式の話、松田と伊藤の中学時代の話などを話始めた松田の目は光を失っていた。

 

 

 

伊藤は美男子で仲間も多くて、なんでも人並み以上に出来るやつだった。

 

 

今生きてれば36。

 

 

すげーやつになってたはず。

 

 

松田はあの後学校を辞めてから音信不通だ。

 

 

 

 

伊藤の家の車庫に横たわっていたグシャグシャのNSRが今も頭から離れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

広告を非表示にする